マルメラーダの小箱 –「かせいた」

  「マルメラーダ」(marmelada)とは,マルメロの果肉を水煮してつぶし,砂糖と共にペースト状に煮詰めてから乾燥させた羊羹状の菓子である。

 「marmelada」はポルトガルでの呼び方であり,同様の菓子はスペインでは「メンブリージョ」(membrillo,あるいは dulce de membrillo)と呼ばれる。

 

 マルメラーダ(およびマルメロゼリー)はヨーロッパの歴史の中では高価なギフトとして喜ばれる存在であり,薬用目的かつスイーツとして用いられていた。その価値は王に対する献上品となるほどで,16世紀には英国王ヘンリー8世がマルメラーダ(英語ではマーマレード)を贈られた記録がある(Wilson,1999)。

 

 さて,マルメラーダは大航海時代の物流にのって日本にも伝来した。日本に持ち込まれたマルメラーダは「かせいた」と呼ばれ,これまた熊本藩細川家において幕府への献上品としての地位を得た。毎年定まった季節に幕府へ贈られる時献上の品目として定着し,4月の献上品として幕末まで継続されたのであった(橋爪,2006)。

 

「かせいた」とは「マルメラーダの小箱」を意味するポルトガル語「caixa da marmelada」に由来するとされる。漢字表記はいろいろで,統一されていない(加世伊多,加世伊太,加世以多,かせ板など)。

 明治以降,何度か途絶えては復元・再現され,現在は「加勢以多」の名前で古今伝授之間香梅(熊本市水前寺公園)が製造販売している。「細川家秘伝の銘菓を復元したもの」として貴重である。

 

ただし,明治時代の復元以降はカリンを材料にするようになったようで,現在もカリンを素材にしているとのことである。ここでもまた「カリンとマルメロ」の切っても切れない関係が見え隠れするのである・・・