カリンの保存

収穫後のカリンの変色
収穫後のカリンの変色

一般に「果物」は「生鮮食品」という部類に入る。鮮度が重要,変化が急速であり,早く食べないと品質が劣化してしまう・・・というのが生鮮食品である。

 

 カリンも収穫後の生命活動によって品質変化する,というのは事実であるが,何となく「もぎたての美味しさ」とは無縁であるためか,鮮度保持に対する意識がやや希薄になってしまう。

とはいえ,やはりカリンも生き物である。収穫後の果実の環境温度によって生理活性が異なり,香りやワックスの出方が違うし,包装貯蔵条件が不適切であれば変色をもたらしてしまう。貯蔵条件に関する試験研究はあまりなされていないが,近年,韓国の研究者が包装貯蔵条件に関する論文を出している(An & Lee,2006)。

 

 この研究によると,カリンの収穫後生理の特徴および鮮度保持試験の成果は以下のようにまとめられている。

 

  1. カリンは呼吸量が少ない果実に分類される(リンゴ,ビート,カンキツ類,ジャガイモ,スイカなどのレベル,0.1〜0.3 mmol CO2/kg・hr,5℃)。
  2. 貯蔵温度が高い(20℃)とRQ(呼吸商)が 1.51と高くなり,嫌気呼吸が活発になっていることが示唆された。この場合,果実内に蓄積した炭酸ガスによって生理障害が起きやすい状態になっている。従って,推奨できる貯蔵温度範囲は,0℃〜10℃の範囲である。(0℃でも低温障害はみとめられない。)
  3. ポリオレフィン系フィルム(PD941,厚さ20 µm)による包装により,0℃-152日,10℃-50日の貯蔵が可能であった。(0℃における貯蔵期間は,0℃貯蔵されたマルメロについての報告よりも2〜3ヶ月長い。)
  4. 上記貯蔵下において,0℃貯蔵では袋内O2濃度は9.5〜10.2%となり,CO2濃度は1.3〜1.8%となった。一方,10℃貯蔵ではO2濃度が8.1%,CO2濃度が2.4%となった。なお,貯蔵中にフィルムが果実に密着した状態となった。
  5. ガス透過性の悪いフィルムを用いた場合,包装内CO2濃度は15.8%を越え,O2濃度は1.8%未満となり,空隙容積は増大し,果実の色は黒っぽく変色した。

 

 なお,これまでの私的観察では,カリンは室温で放置されたとき,表面のワックスの発生と共にとても良い香りの芳香の発生が進む。しかし茶色く変色し始めるころより香りが不快な臭い(薬くさい臭気)に変化する。果肉硬度は,場合により変色部が軟化するが,全体的にみると乾燥によって小さく堅くなり,木質化していくことが多い。