カリンは食品?

カリンは食品か,と問われれば,「果物だから食品」という単純な返答にはならない。食品に使われるから,「食素材」であることに間違いはない。例えるなら,摘み立てのお茶の葉や,コーヒーの実を指して,「これ食品ですか」と問われたときの悩ましい感覚に近い。いや,カリンはそのまま食べられそうなほど良い香りがするし,知らない人はむしろ食品だと信じているので,やはりそれ以上に返事にとまどうのである。実際にカリンの実を手にした知り合いが,「食べてみたい」といったときには言葉に詰まって苦笑いをしてしまう。まあ,食べさせてあげるのですが。

 

カリンの果肉を噛むと,一瞬はほどよい果汁の味を感じるが,すぐに強い酸味と渋味が口中を覆い,割り箸をしがんでいるような何ともいえない食感の悪さと一緒になって顔がゆがむ。はっきり言って,まずくて食えたものではない。この点,まだマルメロは生食に耐える。もっとも,美味しい,という意味ではないが。(とはいえ,自分はまだ出会ったことはないが,マルメロのある品種はパインアップルの香りがし,完熟したときにはそのまま食べられるという。これには是非出会ってみたい!)

 

カリンの味については江戸時代から評価は変わっていない。『本草綱目啓蒙』には「味酸渋食シガタシ。」とあり,『和漢三才図絵』には「味は酸(すっぱ)く 木(しがしが)である。」との描写。

 

「木(しがしが)!」

 

まさにカリンのためにある表現ではないか,と思えるほど,言い得て妙である。

 

カリンはなぜ不味いのか

「カリンがなぜ生食できないのか」という疑問について,物理化学的性質面から研究された例がある(真部・門脇,1998)。

 

この報告では,カリンが生食できない要因を以下の3つに集約している。

 

  1. 果肉に含有される高い濃度の有機酸(リンゴ酸換算で1.5〜2.0%)の存在,特に鋭い酸味に関係するキナ酸の比率が高いこと
  2. 渋柿に匹敵する高いポリフェノール(可溶性タンニン)含量(1.2%前後)の存在
  3. 果肉を口にした際,触感を損なう(ざらざら感を与える)原因となる石細胞は 0.4 mm〜1 mmにも達する大きさのものが多数(2400〜4900個/g果肉)存在すること

 

また,この研究の中では,カリンの渋味を渋柿の渋抜きのように炭酸ガス処理で消失させることができないか,ということが検討されたが,不可能であったことが記されている。原因はタンニンの分子量が比較的小さく,生成したアルデヒドによっても不溶化し得ないからであろうと考察されている。

 

実は筆者も以前に,同様の発想でアルコール脱渋を試みたことがあったが,やはり渋は抜けなかった。