カリンの魅力

カリンとはとてもユニークで不思議な果物である。

 

熟した果実は黄色く光沢を放ち,とても美しく,また,芳香剤のように甘美な良い香りがする。ところが,それを食べようと思ってもとても歯が立たない。というか,不味くて食えたものではない。江戸時代の果実の描写は「味酸渋,木(しがしが)。」そのギャップがまた,楽しい。

 

果実は昔から漢方薬の原料とされ,食品として果実酒や菓子に加工されても薬効のヘルスクレーム付である。「薬用果実。」この響きがまた,その地位を不動のものとしている。

 

樹皮は雲紋状にはがれ,迷彩服のような模様になる。これはまた,芸術的な味のある美しさであり,観賞しても楽しい。盆栽という楽しみ方もあるのだ!

 

花もとっても可憐である(洒落じゃないけど)。短い新梢の先に一つつける薄ピンク色の花は飽きの来ない美しさである。

 

「菴羅樹(アンラジュ)」とか「安蘭樹(アンランジュ)」とかいう別名ももらって,神社やお寺の境内に植えられ,珍重されている。これまた,不思議。

 

渡来年がはっきりしない。伝説では空海が唐より持ち帰ったことになっている。平安時代より年中行事で使用された記録がある。歴史や文化との関わりがまた,太古のロマンを感じさせる。

 

カリンでないのに「カリンの仮面をかぶった」果実が存在する。その名は「マルメロ」。これら両者の関係も複雑でおもしろい。カリンは西洋では「偽マルメロ」なのだ。

 

植物分類学上の位置づけがややこしい。今は一属一種の学名を与えられているが,それまではボケの仲間であった。血縁関係はいかなるものなのか。