マルメロの魅力

マルメロもカリンに負けず劣らずユニークで不思議な果物である。

 

熟すととてもいい香りがするのに食べると酸っぱくて渋くて食感が悪い。カリンほどではないけれど,やはり加工技術と切り離せない特殊な果物なのだ。古代ローマのアピキウスの料理書にもレシピがある。

 

リンゴより古くから栽培され,古代中東から欧州の文化と縁深い。イスラエルの王ソロモンの「雅歌」に登場する「リンゴ」はマルメロである,ともいわれる。古代ギリシャでは,マルメロはアフロディテに捧げられた聖なる果実であり,愛の象徴としての婚礼の儀式の捧げものであった。プリニウスによれば凶眼の魔力を祓う効能を持つという。信仰の世界とも深く関わる,意味深長な果実なのである。

 

やはり薬用果実としての利用の歴史がある。果実シロップの効能もさることながら,種子の薬用としての利用は伝統があり,クインスシードとして今も定評がある。

 

ジャムやゼリー,マルメロペーストなど,西洋のスイーツとしても話題豊富で,しかも高級品としての扱いなのだ。マーマレードはマルメロジャムが始まりであるし,スペインのメンブリージョはチーズと食べる果肉ペーストだ。ノストラダムスは王に献上できる極上マルメロゼリーのレシピを記している。フランス王ルイ十四世はマルメロジャムがたいそうお気に入りだった。フランスにおいて王への献上品であった「マルメロジャムの小箱」はポルトガルより日本へ伝来し,「加世伊太」というお菓子に形を変え,やはり江戸幕府への献上品となったのである。

 

マルメロが主役の映画がある!マルメロはスターでもあるのだ。

 

なぜかカリンの別名をもつ。上記のように,西洋ではかなりの地位を与えられていたと見えるマルメロが,どういうわけか日本でカリンの仮面をかぶっているのである。これまた奇異な物語ではないか。